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立ち読みコーナー

『監督官がやってくる!』

<第2章>労働基準監督署の調査から措置の流れ

悪質な場合は書類送検される

是正勧告で問題が収まらないような場合は、「書類送検」となります。書類送検とは、検察官送致の一種で、被疑者の逮捕・勾留の必要がない事件や、被疑者が送検以前に死亡した事件、時効が成立した事件の被疑者が判明した場合などで行われます。「送検」や「書類送検」という言葉は、マスメディアで多く使用される用語であり、訴訟法や実務上は使用されません。

最近の労働基準監督署の特徴として、是正勧告だけでなくサービス残業・長時間労働が悪質であると判断した場合は書類送検も辞さないという姿勢が現われています。

確かに一企業の側から見ると、現実的には書類送検されたり逮捕されたりするようなことは、きわめて稀なケースといえます。しかし、労働基準法は「労働刑法」であり、労働基準監督署は刑事訴訟法に規定する「司法警察官」です。労働者の安全や生命が脅かされるような事態については黙っていることはできないので、事案によっては企業存続の最大リスクと考えて早急に手を打つべきです。

私は一般的に労働基準監督署の書類送検事例には以下のようなバターンがあると思います。

長時間労働(一般的に月間80時間以上の時間外労働)

    ↓

過労死・過労自殺が発生又は死者を伴う交通事故など人の命を脅かす労働災害

    ↓

36協定届無し(又は限度違反)=労働基準法第32条違反(法定労働時間違反)
再三にわたる是正勧告無視・虚偽報告等

    ↓

書類送検される

つまり、長時間労働が恒常的に存在している職場・仕事で、過労死、過労自殺、死者を出してしまうような大きな交通事故などが起こってしまったときが危ないといえます。長時間労働の是正について再三勧告を受けていた場合などはなおさらです。

労働基準法は労働刑法なので、労働時間関係で言えば労働基準法第32条違反(法定労働時間違反、36協定の限度違反)や労働安全衛生法違反で書類送検をします。会社のリスク管理の観点でいえば、長時間労働を是正し、社員の健康と安全に配慮しながら、36協定は毎年しっかりと労使で締結・届出を行っておくこと大切です。(36協定については○頁参照)

 最近の労働時間に関する送検事例をあげておきます。多くの中小企業において「決して他人ごとではない」ということがわかっていただけると思います。

■福岡県/トラック運転手事故死 超過勤務の疑い 会社を書類送検 行橋労働基準監督署/北九州・京築
2010/02/06? 西日本新聞朝刊? 24ページ

行橋労働基準監督署は5日、労働基準法(労働時間)違反などの疑いで、大分県中津市福島の運送会社「ジャパンライン」と同社専務(30)を地検小倉支部に書類送検した。
 送検容疑は、昨年5月、豊前市にある同社北九物流センターの男性従業員=当時(48)=に法定労働時間を超える超過勤務をさせ、健康診断も受けさせなかった疑い。厚生労働省が定める1カ月当たりのトラック運転手の拘束基準を48時間超えて働かせていたという。
 従業員は昨年6月1日、山口県下関市小月町の中国自動車道で大型トラックを運転中、事故を起こして死亡し、ほかに2人が負傷した。同社は2007年にも大分県玖珠町で別の運転手が5人死傷事故を起こし、労働基準法違反などで刑事処分を受けている。

■名ばかり管理職:男性店長過労死、居酒屋社長ら書類送検--大阪
2009/12/04? 毎日新聞 朝刊? 29ページ

大阪中央労働基準監督署は3日、過労死した男性店長に長時間労働させていたとして、飲食店経営会社「磯治」(大阪市中央区)と同社社長(60)を労働基準法(労働時間)違反などの疑いで大阪地検に書類送検した。男性は「名ばかり管理職」で、残業代は支払われず、月額1万円の役職手当を受け取っていただけだったという。同労働基準監督署によると「名ばかり管理職」の勤務に関する立件は珍しい。
 同労働基準監督署によると、男性は大阪市中央区の居酒屋で勤務。同社は08年3~9月のうち、117日で基準を超える時間外労働(約1~4時間)をさせ、過去1年間で定期健康診断も行わなかったとしている。男性は08年9月、兵庫県尼崎市内の自宅で29歳で死亡した。
 男性は遺族の申請で2月、「長時間労働による過労死」と労災認定を受けた。同労働基準監督署は、男性が従業員を裁量で雇えないなど管理職の職務権限に乏しく、「名ばかり管理職に当たる」と指摘している。同社社長は「労働条件の改善に努めたい」と話した。【稲垣淳】

■過労死女性ら長時間労働 スーパー社長を書類送検/大阪・淀川労働基準監督署
2009/12/04? 大阪読売新聞 朝刊? 39ページ

淀川労働基準監督署は3日、2年前に過労死したパート女性ら従業員18人を長時間働かせたり、同署の調査にタイムカードを提出しなかったりしたとして、大阪市西成区の食品スーパー「スーパー玉出」と、前田託次社長(65)、同社元顧問の社会保険労務士(53)を労働基準法違反(長時間労働や書類不提出など)などの疑いで書類送検した。
 発表によると、社長は2007年7~9月、同市東淀川区の東淀川店に勤務する18人に、1日最長5時間30分の時間外労働をさせるなどした疑い。
 50歳代のパート女性は同年9月末、職場でくも膜下出血で倒れて、1か月後に死亡。時間外労働が月147時間に及んでおり、昨年5月、過労死と認定された。同労働基準監督署は同店でほかに、健康診断の未実施や割り増し残業代計146万円の未払いも確認したという。
 同社は大阪府内で54店舗を展開、従業員数は計約1800人。同社は女性が倒れるまでの約8年間に、長時間労働や賃金未払いで11回の是正指導を受けていた。同社管理本部は「従業員が死亡したことは遺憾で、遺族には誠意を持って対応した。一部店舗で指摘を受けた点はすでに是正している」とコメントしている。

■長時間労働で1人過労死 今治の建設会社、副社長ら書類送検=愛媛
2009/10/03? 大阪読売新聞 朝刊? 25ページ

松山労働基準監督署は2日、従業員4人を法定労働時間を超えて働かせたとして、建設会社「マルマストリグ」(今治市北宝来町、河野通則社長)と、同社副社長(69)、役員(58)の2人を労働基準法違反容疑で地検に書類送検した。4人のうち1人の男性(34)が2007年4月に心筋梗塞(こうそく)で死亡、今治労働基準監督署が08年4月に「過労死」と認定したことが、同社の過重な就労実態を調べるきっかけとなった。
 発表によると、同社は07年1月22日から男性が死亡した4月8日まで、松山支店の防水工事担当の従業員4人に、1日の法定労働時間(8時間)のほかに1日12分~9時間45分の時間外労働を延べ240回させるなど過重労働をさせた疑い。副社長らはこれらの違反行為を把握しながら是正させなかった疑い。
 今治労働基準監督署の調査では、過労死した男性は死亡前の6か月間に、1日最大9時間45分、月100時間を超す時間外労働をしていたという。

■時間外労働をさせた疑い えびのの会社など書類送検 都城労働基準監督署=宮崎
2009/09/04? 西部読売新聞 朝刊? 27ページ

都城労働基準監督署は3日、えびの市の電子部品運搬用資材製造会社「九州ゴールド」と、同社の男性社長(41)を労働基準法違反の疑いで宮崎地検都城支部に書類送検した。発表によると、昨年5月21日~9月20日、従業員2人に対して協定を結ばず、1日最長5時間半の時間外労働をさせた疑い。同社は1か月当たり最長47時間の休日労働もさせていたという。同労働基準監督署は4月、別の従業員を過度の時間外労働によるうつ病と労災認定。その際の調査で今回の違反が判明した。

■宮古の新聞販売所、労働基準法違反の疑い 所長と店を書類送検 /岩手県
2009/03/19? 朝日新聞 朝刊? 33ページ

宮古労働基準監督署は18日、法定労働時間を超えて従業員を働かせたなどとして、宮古市宮町の読売新聞販売所「さかした新聞店」と所長(46)を労働基準法違反などの疑いで盛岡地検宮古支部に書類送検した。
 同労働基準監督署の発表によると、所長は07年6月~08年11月、従業員5人に791回計約1493時間にわたって、法定労働時間(一日8時間)を最大約8時間超えて働かせ、このうち3人には123回計約885時間の休日労働をさせた疑い。
 また、07年6月~08年10月の賃金台帳に、従業員28人の時間外労働時間数や休日労働時間数などを記入しなかった上、うち1人には07年5月10日~08年12月5日、定期健診を受けさせなかった疑いがある。
 同労働基準監督署は07年5月9日に是正勧告を出し、08年9月30日までに5度、是正状況を報告するよう命じたが、同新聞店は報告しなかったという。