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立ち読みコーナー『監督官がやってくる!』

『監督官がやってくる!』

<第2章>労働基準監督署の調査から措置の流れ

労働基準監督署の調査はどのように行われるか

●「定期監督」と「申告監督」

労働基準監督署は労働基準法の遵守状況を調査するため、企業に調査・指導を行ないます。その調査・指導には、代表的なものとして「定期的・計画的調査」と「従業員の申告に基づく調査」の2種類があります。

  1. 定期監督=定期的・計画的に実施される労働基準監督署主導の調査
    原則として臨検(立ち入り調査)は行なわれず、必要書類を持参のうえ事業所が労働基準監督署へ出向きます。

  2. 申告監督=労働者からの申告に基づいて実施される調査
    いわゆる労働者からの「チクリ」によるもので、その裏づけとなる事実を中心に臨検(立ち入り調査)が行なわれます。

●「定期監督」に選ばれやすい企業がある?

定期監督は労働基準監督署サイドで任意無作為に企業を選び出して調査します。任意無作為といっても、これまで私が見てきた事例ではこのような企業がよく選ばれています。監督官に「どのような基準で調査対象を選んだのですか」と聞いて監督官が答えてくれたケースもあります。

なお、「今年は従業員10人以上の産業廃棄物処理業を対象にしよう」とか、「今年は従業員が10人以上いるが就業規則が出ていない企業を対象にしよう」など、毎年テーマを設定して行なわれるのが一般的のようです。長時間労働・サービス残業が散見されそうな営業販売会社なども狙い目になるでしょう。

●「申告監督」による調査は厳しい

申告監督は監督官が事前に通知を行なわず、突然、事業場にやってくることもあるし、電話で「調査のため、いついつおうかがいさせてもらいたい」と事前連絡があることもあります。申告監督の場合は、労働者が労働基準法違反の事実をあらかじめ労働基準監督署に伝えているので、その事実を中心に重点的にかつ厳しく調査が行なわれます。

相当な裏付けをもって臨検に来るので、タイムカードの打刻に不審なところがあれば、パソコンのサーバの記録や警備会社に残っている入退室の時間記録などと突き合わせるケースもあります。1日に30分以内のズレであればおとがめはないと思われますが、それが1時間、2時間の食い違いとなると、監督指導の対象となることは間違いありません。

監督官によっては、調査の前後に申告があった旨を教えてくれる場合もあり、最後まで教えてくれず淡々と調査をして帰る場合もあります。もちろん、在籍者であれば社員の誰が申告したかなどは一切教えてくれません。

労働者がどのようにして申告にいくのかについて参考になるものとして、日本労働弁護団のホームページを紹介します。労働弁護団は労働基準監督署への申告の積極的な活用を推奨しています。図表5がその内容を抜粋したものです。

図表5 日本労働弁護団のホームページから
賃金不払残業、違反残業撲滅のために、労働基準監督署を活用しましょう」

労働基準監督署への申告について

労働者は、労基法違反の事実を行政官庁または労働基準監督官に申告することができます(労働基準法104条1項)。そして、このような申告を行なったことを理由として不利益な取扱いをすることが禁止されています(同条2項)。
残業不払については36協定を結ばずに残業をさせ、割増賃金を支払わない場合や36協定を結んでいても、限度時間以上に残業をさせ、割増賃金を支払わない場合に、長時間労働の是正や割増賃金の支払いをさせるために、労働基準法違反を理由として、所轄の労働基準監督署に申告することができます。労基法違反申告書の雛形(本書では31~34ページ)を使用して下さい。
申告については、原則として、労働者が自分の名前で行うことが必要ですが、会社によっては、「犯人探し」が行われることがありますので、申告の際に担当の監督官とよく相談してください。場合によっては「匿名」で申告することも考えられます。ただし、匿名申告の場合は、調査の着手にやや時間がかかることもあります。また、匿名申告でも誰が申告したかが会社にわかってしまうことが心配な場合、「情報提供」という方法もあります。「情報提供」は、労基法104条1項に基づく正式な申告ではありませんが、労働基準監督署としてもその内容によっては、調査・指導を行うことがあります。ただし、正式な申告と異なり、調査に踏み切るかどうか、そのタイミングをどうするか、についてはすべて労基署の判断に委ねられ、迅速な対応がなされない可能性があります。
書類や資料が揃っていなくても大丈夫です。例えば、就業規則、労働協約、36協定、タイムカードなどの資料が手元になくても申告できます。その場合、労働時間が分かるようなどのような資料があるか、会社のどの部署にどのような書類があるのか、誰に聞けば分かるかなど情報を担当官に提供して下さい。
申告が受理されれば、労基署の担当官は調査に入ります。その結果については、正式な申告をした場合、申告者に教えてくれますし、情報提供の場合であっても、問い合わせには対応してもらえます。
(注意点)労基署に行ったら、単なる相談窓口に案内されてしまうことがありますので、必ず「労基法による正式な申請に来た」といってください。

●申告に基づいて監督署へ呼び出されることもある

労働者の申告に基づいて、監督署から出頭を要請される場合もあります。これは退職従業員から解雇予告手当が支払われていないなど、退職にまつわるケースが多いようです。これも厳しく改善が求められる申告監督に準ずるものだと思ってよいでしょう。