立ち読みコーナー『監督官がやってくる!』
<第2章>労働基準監督署の調査から措置の流れ
使用者による労働時間の把握義務
労働時間把握は使用者義務
労働基準監督署の調査で一番問題になるのは、残業、つまり労働時間についての調査です。
使用者は、労働時間の把握義務を負っていますので、何らかの方法で労働時間を管理し、時間外労働の時間も含めて把握する必要があります。
タイムカードやICカード等の機械的記録(以下、「タイムカード等」という)は、出勤・退勤時刻のための記録であって、始業・終業の時刻を推定する一つの手段にしか過ぎません。
ですから、タイムカード等の打刻から打刻までの間を労働時間とみなして、残業代を支払うことなどと決まっているわけではありません。
時間外労働の開始・終了時刻(あるいは時間外労働時間数)を別途申告させ、会社が許可するという方法をとっても差し支えありません。
もちろん、タイムカード等で把握した打刻から打刻までの間を労働時間とみなして残業代を支払うことも、問題ありません。
タイムカード運用のリスクについて
労働基準監督署は、時間外労働の端数処理を問題にしています。この点で怖いのは、タイムカードで労働時間を記録している場合です。
仮にタイムカード等の機械的記録による方法のみで時間管理を行っている場合には、裁判例では、「タイムカードに記載された出勤・退勤時刻をもって実労働時間を認定する。」とされています。
したがって、タイムカード等の機械的記録で時間管理を行う場合は、正確な記録をするように、従業員に徹底する必要があるでしょう。
しかしながら、正確な記録を徹底することは、実際にはなかなか難しいのが実情ではないかと思います。
確かに、ロス時間が10分程度であれば、通常考えられる範囲ですので、それが無かったことを労働者が証明するということも考えられますが、基本的には、ロス時間の証明責任が使用者に課せられることを考えると、タイムカード等に加えて、許可制を併用することが効果的だと考えます。
このような場合で問題になると考えられるのは、タイムカード等によって把握された時間と、許可制によって把握された時間に乖離が出てくるということです。
しかし、社内ルールとして、許可制が十分機能している場合であれば、タイムカード等によって把握された時間ではなく、許可制によって把握された時間を実労働時間として管理するということで、問題はないと考えられます。
ただし、この場合でも、それぞれの方法により把握した時間において、あまりにも乖離が大きいような場合には、許可制による時間管理が適正に運用されていないと推測される可能性があり、前述のように、タイムカード等によって把握された時間が実労働時間であるとの認定がなされるリスクがあります。