立ち読みコーナー『監督官がやってくる!』
<第2章>労働基準監督署の調査から措置の流れ
最近の調査はほとんど「申告監督」?
●匿名は「情報提供」として扱われる
最近は申告監督の割合が増加しています。労働基準監督署への申告件数が年々増加しているからです。労働基準監督署ごとなどの詳細なデータはわかりませんが、監督官によれば、毎日、数件はあるといいます。
「申告」とは「行政官庁に対する一定事実の通告であり、違反事実を通告して監督機関の行政上の権限発動を促すこと」をいい、監督官も申告がたびたびあると放置することはできず、その対応に追われることになります。
最近は労働者本人からだけでなく、その両親や奥さんからの申告も以前にも増して多いと聞きます。内容はやはり「長時間労働」です。長時間労働にもかかわらず、賃金明細の時間外手当の欄がゼロであれば、「あれだけ残業させられているのに残業代も払わない! ひどい会社だ! 監督署に訴えて是正してもらう」となるのも無理はありません。
家族からの申告の多くは「匿名」で行なわれます。匿名であれば労働基準監督署は行政に対する「情報提供」ととらえ、原則として「申告」とは扱いません。しかし、度重なる「情報提供」があり、「監督指導の必要あり」と判断した場合は、たとえ匿名であっても臨検に動くことになります。
申告があれば必ず労働基準監督署が動かなければならないという法的義務はありません。監督官は、労働者からの違反の申告を受けた場合、調査などの措置をとる職務上の義務を負うかという点について、基本的に負わないと考えられています。(東京労働局長事件 東京高判昭和56.3.26)
●監督官の数は多いか少ないか
ところで、申告数は増加する一方ですが、監督官の数は限られています。平成17年労働基準監督年報によると、労働基準監督官の数は「本省=37人」、「都道府県労働局=806人」、「労働基準監督署=2,859人」となっています。本省、都道府県労働局および署の次長以上の役職者(いわゆる管理職)は現場の申告処理、臨検などはやっていなので、調査対応の“第一線の監督官”は2,000人程度になると思われます。
一方、事業場は442万8,238軒(平成16年総務庁統計局発表)ですから、第一線の労働基準監督官1人当たりの適用事業所数は2,200事業所以上となってしまいます。つまり、1人当たり年100ヶ所の事業所を回るとしても、22年かかってしまう計算になります。ですから、労働基準監督署の調査が毎年のようにある事業所もあれば、1回も経験したことがない事業所もあるなど“ムラがある”のは無理のないことです。監督署の調査は従業員とモメない限りは、一生縁のない会社もあることでしょう。